地方の公共交通を立て直す!@高知家

地方の車社会、公共交通、自転車活用をはじめとする交通論・都市計画論、その他いろいろ

高知の公共交通再生プロジェクト【その6】新運賃体系案・追記

【その5】から続きます。

 

新運賃体系導入後の運賃例

 

距離比例式の新運賃システムが導入された場合、運賃がどのように変化するか高知駅を起点にして列挙してみました。

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ご覧のとおり、県民(住民)利用については現在とは比べ物にならないほど、安価に利用できるようになります。長距離でも短距離でも気軽に公共交通を利用できるようになります。本来、公共交通というものはそうあるべきだと思います。

 

高知市においては、路線バスの本数やネットワークが改善され、カーシェアリングサービスの普及が進めば、山間部を除くほとんどの地域でマイカー所有が不要になるでしょう。休日に、公共交通利用で高知県各地へ遊びに行くことも現実的になります。

 

安芸市土佐市須崎市四万十市などの小都市でも、市街地やその周辺に住んでいればマイカーを所有しない選択肢も可能になります。市街地内は平坦であり自転車があれば十分移動できる広さですし、高知市などへ出かける時は、鉄道が気軽に利用できるようになります。アフターファイブに高知市内の飲み屋街へふらっと行くことも可能になります!

 

馬路村など山間部の本数が少ない路線であっても、運賃が常識的な水準になるため用事で安芸市へ行くときなど、マイカーでなくバスで行くという選択肢も生まれます。運行本数が今より改善されれば、山間部でもマイカーなし(作業用の軽トラのみ所有)という選択肢も可能になります。電動アシスト自転車も劇的に進化しており、集落内はそれで十分移動できるほどになっています。

 

運賃面だけとっても、公共交通連合の実現で県民の暮らしは劇的によくなると確信しています!!

 

観光客等に関しては、「1日ごとの初乗り200円+距離比例1kmあたり15円(繁忙期20円)」と県民よりも高めの設定を考えていますが、それでも現行運賃よりも安価になる上、運賃体系が統一されるので安心して利用できます。高知市内から安芸市方面、須崎方面、幡多方面へも足をのばしやすくなります。

 

「こんなに安くして収入は大丈夫なのか?」と疑問に感じられたかもしれませんが、後ほどの記事で詳しく述べていきます。

 

運賃体系共通化・定期券廃止によるメリット

 

◆ 利用者側のメリット ⇒ 行き帰りで違う経路を選択可能に!

 

2021年11月から翌1月末までの日祝日において、電車バス無料デーが実施されていた時のことです。

 

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(電車バス無料デーポスター)

 

ある知り合いの方の話ですが、高知市中心街の事業所で勤務しておりJR土讃線の「高知商業前~高知」間を通勤定期利用で通勤しています。ちなみに高知駅から中心街までは徒歩で移動しています。

 

ある無料デーの実施日、「今日は路面電車が無料なのでそれで帰ろうと思っている」と話されていました。

 

なるほど、無料ゆえに追加出費の必要がなく、運営会社に縛られず状況に応じて最も合理的な交通手段が選べます。無料デーの思わぬ副次的効果です。

 

無料とはいかなくても、運賃が距離比例式になり定期券の縛りがなくなれば、それと同様のことが可能になります。

 

鉄道とバスが平行している場合、出勤時はA社運営の鉄道ダイヤがちょうどよく、帰宅時はA社の鉄道よりもB社運営の路線バスがちょうどよい時刻に出る場合でも、定期券の場合はどちらかの運営会社の路線に縛られるので、そのような使い分けはできません。

 

公共交通連合により、事業者問わず統一された運賃体系と定期券に替わるポイント還元による割引方式を導入すれば、出勤時と帰宅時で交通手段を適宜選べるようになりますし、買い物等で寄り道した場合も定期券が有効な路線まで戻って乗らなくてもよくなります。

 

◆ 運行側のメリット ⇒並行する鉄道とバスの役割分担を明確にできる!

 

現在、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線、中村宿毛線ともに並行して路線バスが運行されています。鉄道があってもきめ細かく停まる路線バスはなくてはならないものですが、実際には双方がバラバラに運行され共に本数も少なく、少ないパイを奪い合っているようにも思います。

 

それも、公共交通連合により運賃体系が統一されれば、両者の役割分担を明確にした運行体系が可能になります。

 

例えば、中村宿毛線において、各駅停車は通勤通学の需要がある朝夕のみの運行とし、それ以外の時間帯は、宿毛~中村~窪川~高知方面を結ぶ速達列車(これは快速化が望ましいと考えています)のみの運行とし、間の部分は鉄道よりきめ細かく停まる路線バスに任せるのがベストだと考えています。

 

ごめん・なはり線については、前者とは少し異なる考えで昼間時は各駅停車のみの運行とし(需要が増えた場合は快速も運行)、並行する高知東部交通が運営する路線バス「安芸線」のルートを変更し香南市営バスや安芸市営バスとの重複を解消するのが望ましいと考えています。

 

f:id:nomotoyasushi:20220330130236j:plain(安芸線ルート変更案)

 

f:id:nomotoyasushi:20220330130623j:plain香南市営バス路線図 香南市ホームページより)

 

例えば、香南市夜須町では国道区間でほぼ安芸線と市営バスがほぼ重複し、同香我美町~赤岡間では、安芸線は国道を市営バスは主に旧道を通り、ほぼ同じ区間を3つの公共交通機関が運行しています。その中でも安芸線は、速達のごめん・なはり線、きめ細かさの市営バスの間に挟まれた中途半端な存在になっています。

 

それゆえ安芸線に関しては、、よりきめ細かい運行とバス同士の重複を解消するため、夜須町手結や住吉の集落内を経由、香我美町岸本間は旧道を経由とし、赤岡町~野市町間も野市中央病院等へのアクセス向上やみどりの団地近辺の需要を拾うことを視野に入れて、野市中央病院前を経由するのが望ましいとよいと考えています。また、夜須駅にてごめん・なはり線と緩急接続を図るとよいでしょう。重複が解消すれば、市営バスも他路線の充実にリソースを割けるようになります。

 

同様に、芸西村内も内陸部の役場や小学校前を通るルートに、安芸市内も穴内の台地上を経由するルートに変更が望ましいと考えています。

 

【その7】へ続く

 

【その7】情報案内の一元化

 

高知の公共交通再生プロジェクト【その5】新運賃体系案・後編

【その4】から続きます。

 

前記事では新運賃体系案の中の「距離比例運賃システム」について述べましたが、今回はそれ以外の新運賃体系案について書いていきます。

 

大人同伴の子供運賃は無料に!

 

コロナ渦前より高知の公共交通全般、土休日の利用は芳しくなく、家族連れで乗っている姿はほとんど見かけません。休日の夕方の高知駅、通学定期持っていると思われる高校生の姿が目立ち、子供連れの姿を見かけるのは稀です。道路にはクルマが溢れて渋滞する一方、公共交通は閑古鳥…。大変もったいないと思います。

 

f:id:nomotoyasushi:20220330112003j:plainイオンモール近辺の渋滞 2016年12月11日[日])

 

しかし、現行の制度ではそもそも運賃は高い上に、乗り換えたらさらに割高になります。夫婦で乗って二人分の運賃に加え、子供運賃は半額になると言っても子供二人連れの場合、合計で大人三人分の運賃が必要になります。

 

イカーでしたら、1人で乗っても4人で乗ってもかかる費用は基本的に同じで(多少燃費は悪くなりますが)、すでにマイカー持っているならそれを最大限活用するのが経済的に合理性があるのは言うまでもありません。本数も少ないならなおさらです。よって、公共交通が利用されないのは当たり前と言えます。

 

ですが、マイカー利用抑制による渋滞緩和および公共交通自体も増収の観点から、家族連れにも公共交通を利用できるならできるだけ利用してもらった方がいいのは言うまでもありません。

 

子育て支援の観点から、子育て世代においても家計負担が大きいマイカーを持たない(あるいは一家の台数を減らす)で済む環境づくりのためにも「家族連れでも気軽に乗れる公共交通」の実現が求められます。

 

【その2】でも述べましたが、家族連れで利用しやすいよう、思い切って大人同伴の子供運賃は無料化することを提案します。それも小学生までではなく義務教育が終わる中学生までを対象にすることを考えています。地方の公共交通復権にはそれくらいの思い切った施策が必要です。

 

いくら1km10円の距離比例であっても、夫婦で利用したら1km20円となりマイカーのガソリン代に比べて不利さもあるので、積極的に乗ってもらうには同伴の子供は無料にせざるを得ないという側面もあります。

 

この大人同伴の子供運賃無料化は、県民(住民)のみならず観光等の来訪者も対象にするのが良いと考えています。子供運賃が無料であれば、観光客も公共交通を利用しやすくなるのは言うまでもありません。

 

同伴の子供無料化は10年くらい前から思いついていて「公共交通利用促進策としてなぜどこもやらないのだろう?」と思っていましたが、つい最近、小田急電鉄が無料ではないもののICカード利用に限って距離問わず小児運賃50円の施策を導入することが発表されました。

 

「ついに出たか!!」という感じでしたね。

 

toyokeizai.net

 

家族連れで利用する人が増えれば、結果的にむしろ増収になるでしょうし、長期的にも沿線価値の向上につながるよい施策です。「家族連れで利用しやすい公共交通」は時代の流れに合っています。地方復権のためにも、明日にでも導入してよいくらいです。

 

子供運賃は廃止(子供のみでの利用時に適用)

 

上で述べたように、大人同伴の子供運賃は無料にするのが前提ですので、この子供運賃を廃止する案は、子供単独もしくは子供同士で利用した場合の話になります。

 

「子供半額を廃止するのはサービス低下じゃないの!」と思われるかもしれませんが、前述のように大人同伴の場合は無料化すること、住民は1kmあたり10円の距離比例運賃で十分安価な運賃設定になっていること、小児専用ICカード発行の手間(中学生になる時に大人用に交換の必要あり)を省いて合理化する観点から、新運賃体系の移行の際に子供運賃は思い切って廃止がよいと考えています。

 

定期券からポイント還元へ

 

前記事でも述べましたが、定期券はかなり前時代的な仕組みです。窓口で定期券を販売するコストもバカになりません。

 

県民(住民)利用については、1kmあたり10円の距離比例運賃によりJR四国の通勤定期相当の運賃になることを考慮して、システムの簡素化を目的に定期券は潔く廃止にするのがよいと考えています。

 

以下の表のように、25日往復利用の合計運賃とJR四国の1ヶ月通勤定期の値段を比べるとかなり近い値段になっていることがお分かりいただけるかと思います。JR線こそほぼ同額ですが、とさでん交通路面電車・路線バスや土佐くろしお鉄道線を利用して通勤している場合は大幅な値下げになります。

 

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だが、定期券廃止により事実上値上げになる場合も出てきます。

 

当然ながら通学定期も廃止になるため、高校生であっても支払う運賃は通勤利用の社会人と同額になります。

 

上の表をご覧のとおり、JR線における高校生の通学定期券は破格と言える安さです。通学距離が増えるほど、通勤定期との差は大きなものになっています。「よくこの安い値段を維持しているな」と感心してしまうくらいです。

 

つまり、JR線のみ利用して通学している高校生の場合は、新運賃体系導入により通勤定期相当まで値上げになってしまいます。

 

これに関しては「むしろ今までが安すぎました!ゴメンナサイ!」といか言いようがないです。JR線のみの場合は値上げになりますが、土佐くろしお鉄道線やとさでん交通が絡む場合は、むしろ値下げとなります。そのことを考慮してもこればかりは仕方ないと思います。

 

路面電車の定期券を追加で買うと高いため、高知駅駐輪場に置いている自転車で各学校へ向かう高校生の大群は、毎朝の風物詩になっていますが、これも距離比例式運賃により運賃体系が共通化されるので、気兼ねなくJR線から路面電車に乗り換えて通学できるようになります。

 

「安いJR通学定期券は既得権益なので卒業まで購入権を残すべき」という意見もあるかと思いますが、そこだけ残したらそれはそれで不公平になるので、「ご了承ください」とご理解を求めるのがベターに思います。

 

さて、定期券に替わる実質の値引き方式として、ICカードの特性を活かして月間利用金額に応じたポイント還元の導入を提案します(県民のみ)。これなら、チェーン店勤務で勤務地が変わる場合などにも対応できてより現代のニーズに合っています。

 

付与されたポイントは、ICカード残高へのチャージの他、「高知家ポイント」として、県内のお店等で共通利用できるものを考えています。下の表に還元率の一例として掲載しますが、原油価格の変動、災害復旧その他の状況を考慮して適宜改定を想定しています。

 

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土休日は常時10%ポイント還元!(県民のみ)

 

前項の月間利用金額に応じたポイント還元とは別に、県民については土休日利用分について常時10%のポイント還元を考えています。

 

大人同伴の子供運賃無料と同様に家族連れでの利用促進、それ以外の友人同士等のグループでの行楽についても公共交通利用を促進(=マイカー利用抑制)する趣旨であります。

 

乗り放題パス(QRコード式)

 

いくら距離比例で安価に利用できると言っても、距離による逓減や往復割引は設定されていないため長距離利用になるほど、むしろ割高に感じる場合もあります。特に、観光客等における「1km=15円(繁忙期20円)」の設定の場合、長距離利用の割高感は顕著になり、強いては公共交通利用の上でのバリアになる懸念もあるくらいです。

 

その解決策として、定額で利用できる乗り放題パスの設定も考えています。

 

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キャッシュレス推進・現金払い原則廃止へ!

 

これまでの記述からもお分かりかと思われますが、新運賃体系案はICカードもしくはQRコードによる運賃支払いを前提にしています。そもそも、距離比例式の運賃は現金では対応不可です。

 

現金払いは、現金管理コストの削減、不正防止等の観点から思い切って最終的には廃止すべきと考えます。ICカードへのチャージも、有人窓口を除きクレジットカードもしくはキャッシュカードから直接チャージ可能とし、「最後の手段」として車内で乗務員に申し出て現金チャージする場合は手数料を徴収(手数料分を引いた額をチャージ)するくらいの方がいいと思っています。

 

【その6】へ続く

 

【その6】新運賃体系案・追記

高知の公共交通再生プロジェクト【その4】新運賃体系案・前編

【その3】から続きます。

 

公共交通連合の要の一つである「地域内で統一された運賃体系」の実現について、今回は述べていきます。重要な内容ゆえに長丁場になりますが、よろしくお願いします。

 

現行運賃体系の問題点

 

新運賃システム案に入る前に、現行の運賃体系が抱えている問題点についていくつか指摘したいと思います。

 

◆ 同じ移動距離でも運営主体によって大幅に異なる運賃体系


約15kmの移動でもJR土讃線高知駅土佐山田駅間は360円で済みますが、途中から別会社の土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線が絡む高知駅~のいち駅間は520円と高くなります。

 

そして、とさでん交通路線バスがカバーする高知駅前~西芝(土佐市高岡)間は、870円とかなりの高額になります。ここまで高いと、もはや便利な住民の足ではなく、「車を利用できない人がどうしても移動しなければならない時に仕方なく利用するもの」であると言わざるを得ません。


◆ 乗り換えるたび、途中下車するたびに再度必要になる初乗り運賃


JR土讃線のみで土佐山田駅から旭駅(18.9km)まで移動した場合360円で済む一方、高知駅路面電車に乗り換えてはりまや橋まで移動した場合、合計の距離は16.1kmと前者より短いにかかわらず、路面電車の運賃200円が別途必要になり合計560円と割高になります。

 

乗り換えた電車が、遊園地へアクセスする交通機関であるならば、この運賃体系でも全く問題ないでしょうが、路面電車は職場や病院へのアクセスでも使われる日常交通手段です。世間では「会社が違うから仕方ない」という認識ですが、公共サービスという観点で見るとかなり不条理に思います。

 

また、一旦途中下車した場合も再度初乗り運賃が必要で割高となります。路面電車の市内均一区間内で、ある区間を1回乗車した場合は200円ですが、途中で用事を済ますために下車して再度乗ると、最終的に同じ区間乗っても倍の400円が必要になります。


◆ 均一制と区間制が絡む歪な運賃体系

 

極端な例ではありますが、路面電車の市内均一区間両端(介良通~曙町東町9.0km)を乗車した場合200円である一方、知寄町(市内均一区間)~小篭通間の6.8kmを乗車した場合、前者よりかなり距離は短いにも関わらず480円と2倍以上になります。

 

なお、市内均一区間をたった一区間越えて乗った場合でも200円から310円と一気に運賃が跳ね上がります。

 

路面電車運賃表>

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とさでん交通ホームページより)


◆ 前時代なシステムの定期券


現行の定期券は「決まった区間を多く利用する人は割引しますよ」と仕組みです。役所や学校など、通う場所が固定されており月間における利用日数も一定以上あるという場合は特に問題ないですが、現在においては働き方は多様化しており、定期券はそれらに上手く対応できてないと思われます。

 

例えば、「チェーン店勤務で日によって勤務地が異なる場合」「現地直行・現地直帰する場合」「パートや短時間正社員等出勤日数が少ない場合」「自営業者で様々な場所へ移動する場合」「高校生が部活の試合で移動する場合」などに対応できず、多様な現代のニーズに合っているとは言いがたいものになっています。

 

公共交通は前時代的すぎる!!

 

結局のところ、運賃体系をはじめ公共交通をとりまくシステムが古すぎます。それら前時代的なシステムを根本的に見直してこなかったことこそが、公共交通離れ・クルマ利用への逸走を招いてきた最大の要因と考えられます。

 

クルマ利用においては、固定費は高額であるものの道路を利用する上でそのような不条理はありません。関所があるわけでもなく、有料の高速道路も下道で回避できます。ガソリン代も基本的に走った距離に応じてかかります。公共交通の不条理さに比べたら雲泥の差です。

 

IT化が進んでいなかった時代は、設備や事務処理能力を考えるとそれで仕方なかったと思います。(それでも、会社間通し運賃となる定期券の発行はできたかと思われますが)

 

現在では、ICカードQRコードなどIT技術を活かした決済方法が登場しています。通し運賃への対応も容易になっていますし、定期券に替わってポイント還元による割引も可能になっています。

 

これらの特性を活かして、「より利用者目線に立ったシステム」を導入しやすくなっています。地方の公共交通をバージョンアップしていくチャンスです!

 

ICカードQRコードの特性を活かした運賃体系へ

 

これまでも「どういう運賃体系が利用者にとってベストだろうか?」と色々考えてきました。

 

すでに公共交通連合(運輸連合)を実施している欧米の事例では、IT化前よりゾーン制やレギオカルテなどで対応しています。

 

www.mintetsu.or.jp

www.t-lrt.com

jp-freiburg.info

 

「ゾーン制」は、IT化前においては最も利用者目線に立った運賃システムだと思いますが、それでも利用者がゾーンの範囲を覚える必要があります。ごく短距離の利用では、均一制と同様に割高感が否めず、ゾーンを跨ぐとさらに割高になる場合もあります。ゾーン内外でも不公平が生じてしまいます。

 

交通政策では有名なドイツのフライブルク市都市圏で導入されている「レギオカルテ」はどうでしょうか?「環境定期券」とも呼ばれるエリア定額のパスで、かなりの広範囲を安価に利用できるという素晴らしく魅力的なものですが、残念ながら運行経費に対して運賃収入の割合が低くなるため(独立採算的に言うと大赤字です!)、その部分をカバーする潤沢な財源がない限り導入は困難です。

 

最終的には、公共サービス・社会保障制度として独立採算によらない公共交通を実現することを目標にしていますが、当初は運行経費の8~9割以上を運賃収入で確保できる体制とするのが望ましいかと思われます。どれだけの運賃収入の確保を考えているかは後日アップする記事にて説明します。

 

高知のICカード「ですか」ですでに導入されている「乗継ポイント割引制」も同様に、利用者がそのポイントを覚える必要があり、ポイント以外での乗り継ぎや途中下車には対応していない課題があります。また、以下をご覧のように乗継ポイントによって割引額が異なる点も不条理に思います。

 

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とさでん交通ホームページより)

 

結局のところ、純粋に乗車した距離に応じて1円単位で運賃を支払うのが最も公平かつシンプルな方法です。それならば、乗り継いでも途中下車してまた乗っても、支払った運賃は純粋に移動距離に比例します。一乗車ごとの精算ですが実質的に通し運賃になります。

 

とは言っても、現金払いでは区間ごとの細かい運賃計算や小銭の用意が困難なため、ワンマン運転方式にせよ券売機方式にせよ、1円単位の距離比例式運賃の採用は事実上不可能です。そのため昔から現在に至るまで、便宜的な方法として均一制運賃や段階的な対キロ区間制運賃を採用しています。

 

時は21世紀に入り、先ほども述べたようにICカードQRコードがキャッシュレス決済として登場しています。それらの特性を活せば、1円単位の距離比例式運賃を問題なく採用できます。定期券に替わる割引方式として月間利用金額に応じたポイント還元も可能になりますし、携帯電話料金のように後払いにも対応できます。

 

県民は「1日ごとに初乗り50円+距離比例1kmごとに10円」!

 

距離比例式運賃について具体的に述べていきます。現時点で考えている運賃体系案について以下の表にまとめています。

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◆ 県民(住民)と来訪者(観光客等)とで異なる運賃水準

 

表のように新運賃体系案における最大の特徴は、通勤通学や買い物をはじめとする必需の移動を抱えている県民(住民)と、娯楽やビジネスなどの要素が大きい来訪者(観光客や出張者)とで、異なる運賃水準を採用している点です。

 

県民に関しては、生活交通として誰もが利用しやすい運賃水準に、観光客等の来訪者に関しては、利用しやすい運賃水準を重視するものの県民よりも上乗せし、ある程度の収入確保を視野に入れるという考えです。

 

これもICカードを採用してこそ実現可能になる運賃体系です。

 

◆ 1日ごとの初乗り運賃を導入する理由

 

1円単位の距離比例式運賃を基本としますが、県民、来訪者問わず1日ごとに初回利用時のみ初乗り運賃を設定するのが望ましいと考えています。

 

これは、高知市内などで近距離のみ移動の場合、あまりにも安くなり過ぎるためです。1km=10円の距離比例式運賃のみの場合、通勤で片道3km往復して60円。独立採算を前提にしなくても、これでは運営は厳しいと思われます。そのため、積極的な利用を阻害しない程度に、1日ごとに初乗り運賃の設定を考えています。「基本料金みたいなもの」と考えればよいでしょう。

 

これもICカードゆえに実現できる運賃体系で、距離比例運賃と同様、県民と来訪者とで異なる運賃設定を想定しています。

 

◆ 県民「1km=10円」の根拠

 

この運賃水準はもともと、低所得者でも気兼ねなく利用できる」「マイカーから公共交通へ転換を促す」という視点から着想しています。そのためには、公共交通の運賃がマイカーのガソリン代と比較して高くなり過ぎないことが求められます。乗用車の燃費を1L=15km、ガソリン価格を1L=150円とすると、「1km=10円」となります。自分の経験とも照らし合わせても、「これならどんどん利用する!」と思える水準でもあります。

 

実際には、ハイブリッドカーをはじめとし1Lあたり25km以上走る低燃費車も多く、1km=10円を切る場合も珍しくなくなっていますが、「1km=10円」という設定は何よりも計算が容易であるメリットが大きいです。距離さえわかれば、だいたいの運賃がすぐに暗算できます。

 

加えて、クルマの場合はあくまでも燃料代のみですが、公共交通は支払う運賃の中に燃料代のみならず、車両代、整備代、保険代等がコミコミで含まれています。しかも、運転手まで付いています!それらを勘案すれば、「1km=10円」でもマイカーの維持よりもはるかに安価な設定であると言えます。

 

さらに具体的には、通勤手当のないパート従業員でも気兼ねなく通勤利用できる」「年金暮らしの高齢者が買い物や通院などで利用しても家計を圧迫しない」「大学生が通学のためにマイカーや原付バイクを買わずにすむ」「家族連れや友人同士でのお出かけ時、公共交通利用も選択肢になる」などの視点を重視しています。

 

誰もが、生活の足として日常的に利用できる公共交通の実現には、やはり「1km=10円」程度の運賃水準が妥当であると考えます。

 

JR四国通勤定期の値段で県民誰もが利用可能に!

 

「1km=10円」と聞くと、とさでん交通の路線バスをはじめとする、現行の高額な運賃水準からすれば、一見安すぎるように感じます。この運賃案を適用すると、路面電車の「後免町はりまや橋」が現行の480円から約110円に下がり、ここまでの値下げは一見すると非現実的にも思えます。

 

しかし実際には、JRの通勤定期は「1km=10円」よりも安価になる場合が多いです。例えば、JR四国の片道20kmの1ヶ月通勤定期は10,930円ですが、25日往復利用とすると1日1kmあたり10.93円となり、6ヶ月定期の場合は同じ条件で1日1kmあたり9.35円で10円を切っています。JR本州三社ではさらに安価なものになっており、その中でも電車特区内は極めて安価な設定となっています。

 

JRの通学定期になると、さらに安価になります。JR四国の片道20kmの1ヶ月通学定期券(高校生)は8,000円と、25日往復利用とすると1日1kmあたり8.0円となります。片道40kmの場合は10,240円で、同じ条件で1日1kmあたりわずか5.12円となります。「激安!」とすら思う設定でこの値段で発売していることに感心すらしてしまいます。

 

また大手私鉄では、通常の運賃自体が「1km=10円」に近い場合やそれよりも安価な場合も多くみられます。例えば、東急電鉄の渋谷~横浜間24.2kmの運賃は272円で1kmあたり約11.2円、小田急電鉄の新宿~小田原間82.5kmの運賃は891円で1kmあたり10.8円と1kmあたり10円に近い値となり、阪急電鉄の大阪梅田~京都河原町間47.7kmの運賃は400円と1kmあたり10円を切っています。同じ区間の通勤定期は、1ヶ月定期で15,800円で25日往復利用すれば、1日1kmあたりわずか6.62円の計算になります。

 

それらを勘案すると、「1km=10円」の運賃設定は安すぎるわけでもないことがお分かりいただけるかと思います。むしろ、距離逓減や往復割引の制度がないゆえ長距離利用の場合はやや割高にも感じられるくらいです。(それゆえ、定額の乗り放題パスの設定も考えています)

 

定期券そのものを廃止する考えのため、通学でJR線のみを利用している場合はかえって値上げになりますし、家計が同じ夫婦で同時に利用した場合は「1km=20円」となりマイカー利用に対して少し不利にも思えます。後述しますが、それゆえ家族連れでも利用しやすいよう、同伴の子供運賃無料化や土休日利用の10%ポイント還元を提案しています。

 

まとめますと、「1km=10円」の距離比例運賃により、県民誰もがJR四国の通勤定期の値段もしくは大手私鉄の運賃設定で、県内公共交通機関(一部除く)を区間・一乗車から利用可能になります!!

 

長くなりましたので、後編にて続きを述べていきます。

 

【その5】へ続く

 

【その5】新運賃体系案・後編