地方の公共交通を立て直す!@高知家

地方の車社会、公共交通、自転車活用をはじめとする交通論・都市計画論、その他いろいろ

普通に生活していて突然借金(ローン)が増えてしまうクルマ社会の不条理。

 

前記事「クルマとスマホのために働く地方の若者。」で取り上げた女性の方ですが、この話しには続きがあります。

 

一瞬の不注意による自損事故でクルマは廃車に…

 

ある年の冬、不幸にも事故を起こしてしまいました。

 

日曜日に遊んだ後、帰宅途中に不注意(本人いわく居眠りだとか)で工事現場に突っ込んだという自損事故です。クルマは修理不能と判断され(シャーシが歪んでしまったらしい)廃車となりました。だが幸いにも、怪我はほとんどありませんでした。壊してしまった工事現場の修復費用や怪我の治療費は、任意保険の対物賠償保険、搭乗者傷害保険に加入していたため、それで全部補填できました。

 

しかし、車両保険には入っていませんでした。

 

保険代が高くなるのを嫌ったのか、そこまで必要ないと思ったのかは定かではありませんが、代替のクルマを入手するための資金は、保険からは1円たりとも下りません。自力でなんとかする必要があります。

 

参考:高知県の任意保険(対人対物)加入率、約58%!クルマ社会はすでに行き詰まっています!

 

ローンを一本化して代替の新車を購入

 

結局、新たにローンを組んで新車(同じく軽自動車)を買うことになりました。中古車ではなく新車を買ったは、通勤距離が長いだけに下手に中古車にすると燃費が悪くなるからだそうです。その際、残っていた前のクルマのローンも借り換えて一本化し、新たに8年でローンを組んだそうです。

 

事故当時、前のクルマのローンは残り1年半ほどでした。ローンを払い終わってもずっと使い続けるつもりで、「10年以上乗るつもりだった」と本人はおっしゃっていました。

 

ゴール(ローン支払い完了)までもう一息だったのに…。トラップにひっかかってスタート(ローン支払い開始)まで引き戻されてしまった…。

 

そんな感じですよ。いや、金額が多くなった分、前回のスタートラインよりもさらに手前にまで戻ってしまったと言えます。

 

そんな状況になっても、本人は「クルマが壊れただけでよかった」と至って前向きにとらえています。それはそれで素直に素晴らしいと思います。起こってしまったことをいつまでも悔やんでも仕方ないですからね。

 

突然、莫大な出費を強いられたり借金が増えてしまう不条理

 

確かに、本人の不注意が引き起こした事故ではあります。

 

と言っても、何も無謀運転や確信的な道交法違反をしていたわけではありません。普通にクルマを運転していただけですよ。

 

この種の事故は誰にでも起こりえます。どんなに安全運転を心がけていても、無意識のうちに漫然運転になってしまい、前方のクルマに追突ということもありえます。

 

至って普通に運転していても、ほんの一瞬の不注意で大怪我を負ってしまったり、莫大な経済的損失を抱えたりするのです。廃車にならずとも、修理費が数十万円かかることもめずらしくありません。ほとんど、パチンコで大負けしたようなものですよ。

 

パチンコは行かなければいいけど(そうは言っても、パチンコに通うことをやめられない「ギャンブル依存症」の方も多いので社会問題になっていますが)、公共交通が不便な地方、クルマに乗らないわけにはいきません。パチンコよりタチが悪いです。

 

普通に日々生活していて、突然莫大な出費を強いられたり借金(ローン)が増えてしまうというのは不条理ですよ。

 

同様な事故を起こし、車両保険に入ってなかったがために、二重にローンを抱えてしまったという事例は、知り合いの中だけでもこれだけにとどまりません。その方も、「高知ではクルマは必需品だから仕方ないですわ…」ってぼやいていましたよ。

 

もちろん、車両保険までカバーするフルコースで任意保険に加入すれば、不測の事態への備えも経済面においては万全です。いきなり、莫大な出費や二重ローンで苦しむことはありません。しかし、当然ながら掛け金は高くなってしまいますし、事故を起こすとさらに保険料が上がります。どっちにしても、結局は高いものについてしまいます。地方の安い給料では、かなりキツいで負担ですよ。

 

「車両保険まで入っておくべきだ」って簡単に言える問題ではないのですよね。

 

やっぱり公共交通を充実させていかないとマズいですよ!

 

クルマに頼りすぎた生活そして社会が、いかに高コストで脆弱なものであるか痛感せざるを得ない出来事でした。

 

今後も過度なクルマ依存を放置し続ければ、地方は疲弊していく一方だと思います。誰もが気軽に使える、安くて便利で安全に利用できる公共交通を一刻も早く充実させていかないと!!

 

クルマとスマホのために働く地方の若者。

 

昨年11月に書いた、地方在住者のただでさえ少ない所得が、クルマ関連の費用に多くを食い潰されてしまっているという話し。さらに掘り下げていきます。

 

nomotoyasushi.hatenablog.jp

 

中芸地域から高知市内までの約50kmをマイカー通勤

 

知り合いの例を具体的に取り上げて話しを進めていきますね。

 

少し極端な事例かもしれませんが、給料に占めるクルマ関連費用の割合が高く「クルマを維持するために働いているも同然」の典型例だと思っています。

 

本人のプライバシーに配慮して、生まれた年や住んでいるところは、やや曖昧にしておきます。また、原則として2012年当時で話しを進めていきますので、現在は細かいところで状況は変わっています。

 

平成1〜4年生まれの20代の女性の方で、中芸地域(奈半利町田野町、安田町、北川村のどれかです)に在住しており、高校卒業後は高知市内のとある会社で事務職として就職し、実家から職場までの片道約50kmを、週に5〜6日通勤(隔週で土曜日勤務)しています。

 

給料は、手取りで月13万円ほどだそうです。その中に、通勤手当約15,000円も含まれています。

 

通勤手段ですが、就職当初は免許もクルマもなかったので、土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」利用でした。免許取得後はマイカー通勤に切り替えています。トールワゴンタイプの軽自動車を、新車で購入して毎月ローンを払っています。

 

マイカー通勤に切り替えたのは、至極当然のことだと思います。

 

安芸市以東ともなる田舎では、マイカーを持つのはごく当たり前ですし、そもそも持っていなかったら通勤以外での行動範囲が極めて狭くなります。「ごめん・なはり線」も安芸駅以東では、本数がぐっと減ってかなり不便になりますし、定期代も高知市内へ通勤すれば非常に高額です。マイカーがあれば、鉄道で通勤という選択肢はまずあり得ません。事実上、マイカー通勤一択です。

 

職場への往復だけで給料(手取り)の半分近くが消えている…

 

驚くことに、給料(手取り)の半分近くがクルマ関連に消えています。

 

毎月ローンを払い(月々15,000円ほど)、任意保険代を払い(月々10,000円ほど?)、もちろんガソリン代もかかります。ガソリン代は、かなり距離を走るのため月に15,000円〜20,000円程度はかかっているそうです。その他、税金、車検、修理代もろもろ…。

 

ざっと概算しただけでも、平均すると月々45,000円程度かかっている計算になります。ちなみに、「ごめん・なはり線」(+JR土讃線)の定期代もこれに近いくらいかかっていたそうです。調べてみたら、だいたい月に35,000円ほどです。

 

携帯電話代(だいたい月10,000円と言っていました)や生命保険代など、他の支払いを含めると給料のほとんどは残らないそうです。一時期、会社の帰り道に4時間程度アルバイトをして(それも週5日!)、やっとのことで小遣い確保&貯金していたほどです。

 

現実をきちんと受け止め、身の丈に合った生活をしており、アルバイトで補填までする頑張りようは素晴らしいと思いますが、正直なところ複雑な思いです。

 

社会の構造的な欠陥に、スッポリと嵌ってしまっているからです。

 

実家の近くに就職先がない(もしくは転職が難しい?)という点でも、給料があまりにも低すぎるという点でも、社会が公共交通を上手く活用できていない点でもす。

 

給料のあまりの低さについては、正社員で真面目に働いても生活保護レベルの額である(しかも、所得税、住民税、社会保険料は給料からきっちり引かれた上に、医者にかかればきっちり3割負担ですよ!)など、世の中どうかしているとしか思えません。アルバイトで上乗せした分(月50,000円程度?)は、本業の給料であってしかるべき額ですよ!

 

明らかに社会が歪んでいます。海外なら革命に発展してもおかしくないレベルですよ。しかし、こればっかりは構造的な問題ゆえに根本的な改善が難しいのも確かです。放っておいていいわけではないですが、今すぐどうこうできるものでもありません。言いたいことはいくらでもありますが、書き出したらそれこそ長くなるのでこの辺でやめておきます。

 

社会が公共交通を上手く活用できていない

 

ここで注目したいのは、やはり高額なクルマの維持費それに依存しなければ生活できない社会構造についてです。

 

給料の半分近くをも費やして、通勤手段に過ぎないクルマを維持しなければならないというのは、明らかに異常ですよ。

 

クルマが純粋な趣味で、クルマを持つこと、クルマに乗ることがその人にとって人生における至上の喜びというのでしたら、それでも一向に構わないでしょう。

 

しかし、勤務後や休日に遊びに行くのにも使っていると言っても、ほとんどが自宅と職場の往復での使用です。あくまでも、生活の糧を得るための手段であり経費のはずです。

 

職場へ往復した時点で、稼いだ給料が半分近くも消えてしまっては「いったい、なんのために働いているのやら…」って状態ですよね。

 

さらに片道50kmにもなる長距離を、事故のリスクを抱えながら毎日1時間半近く延々と運転して職場とを往復しなければならないという点も大きな問題です。体調が悪かろうが眠かろうが、神経を張りつめて運転しなければなりません。事務職の他に、運転手としてさらに毎日3時間も残業しているようなものですよ。

 

通勤など義務を伴ったクルマの運転は、もはや楽しいものでも何でもないと思います。つまらない上に、リスクを伴い神経を張りつめる作業でしかありません。

 

ドアトゥドアは、もちろんクルマの大きなメリットです。だがしかし、裏を返すと移動の最初から最後まで、全行程を自分で運転しなければいけないということでもあります。その間ずっと、神経を張りつめ続けなければなりません。移動の大部分を他人の運転に任せられる公共交通とは大きな差です。

 

少なくとも、公共交通の「ごめん・なはり線」が、もっと便利で安ければ、こんなことにはならないのにと思わざるを得ません。寝ながらでも、読書しながらでも、ゲームしながらでも安全快適に通勤できるのにです。

 

本来は、一度に大量の人を運べてスケールメリットが働く公共交通を活用した方が、一人一人が個別にマイカーを走らせるよりずっと効率的なはずです。通勤コストもずっと安くなるはずです。 しかし、現実にはマイカーを維持するのとさほど変わらない定期代がかかってしまいます。

 

何と言うか、社会の仕組みに不備があって公共交通を優先的に利用しやすくなってないのですよね。あるのに使いづらいくて、あまり利用されていない。非常にもったいないと思います。

 

地方の若者はクルマとスマホのために働いているようなものです

 

この事例は、通勤距離が長いだけにやや極端かと思いますが、地方在住の若者は、クルマもスマートフォンもたいてい所有しています。

 

程度の差はあれど、地方の若者の所得は総じて少ないので、クルマと携帯電話関連の支出は、かなりの割合を占めているでしょう。親のお下がりを譲ってもらった、就職祝いに買ってもらった場合などを除いて、クルマのローンも払っているでしょうし、携帯電話にしても次々に買い替えて、ほぼ全員がスマートフォンを持っていますしね。

 

地方の若者は「クルマとスマホを維持するために働いているようなもの」と言っても過言ではありません。

 

本来、クルマ、スマホは、あくまでも移動のため、通信のための手段に過ぎないはずです。メーカーとメディアの巧妙な戦略で、見事に目的化されていますけどね。ただの手段に、所得の多くを食いつぶされてしまうのは本末転倒に思います。

 

こんな状態では、クルマと携帯電話以外の他の消費は伸びませんは。服なんかも売れませんは。

 

最後に「高知市内に引っ越したら?」っていう意見は当然あるかと思います。そう思って聞いてみたところ、「職場の近くにアパートを借りようと考えたことは特にない」と言っていました。仮にアパートから徒歩や自転車で通勤できても、若い女性ともなればクルマを持たない選択肢はなかなかないと思います。勤務後や休日に、遠くまで出かける足がないというのはつまらないでしょうし。それだと、家賃や生活費に加えてクルマの維持費もかかってしまい、実家通いよりもさらに高くついてしまいます。そういうことも勘案して、実家通いがベターなのでしょう。

 

この話しはこれで終わりではありません。続きがあります。

 

続き:普通に生活していて突然借金(ローン)が増えてしまうクルマ社会の不条理。

 

高知県の任意保険(対人対物)加入率、約58%!クルマ社会はすでに行き詰まっています!

 

都道府県別の任意保険加入率

 

以下の表を、ご覧いただきたいと思います。 

 

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2013年末における、自動車任意保険の加入率都道府県別にあらわしたものです。ざっと眺めただけでも、地方の行き過ぎたクルマ社会が、すでに問題だらけだということがよく分かります。

 

愛知県を筆頭に、加入率が高い都道府県は、対人対物保険で8割ほどとなっています。8割もあれば上等のように思えますね。

 

しかし裏を返せば、残り2割は自賠責保険にしか加入しておらず、「万一の時の賠償能力に乏しいクルマが走っている」ということを意味します。2割もいれば路上にウヨウヨいるということに他なりませんよ。

 

その中には、単に危機意識が乏しいだけの「支払う余裕はあるけど加入していない」という人もいるでしょう。それはそれで大問題なのですが、決して多数派ではないと思います。ほとんどは、家計がカツカツで任意保険代まで支払う余裕がないというのが実態ではないかと思います。

 

もし、対人および対物で事故を起こしてしまえば、多額の賠償を全額自腹切るしかありません。十分な賠償が経済的に厳しければ、被害者は泣き寝入りするしかありません。自損事故だった場合も、修理費などで多額の出費が突然のしかかってきます。廃車にして代替車を購入した場合、二重にローンを払わなければいけない事態になることも。

 

真面目に任意保険に入ったら入ったで、たしかに事故時の不安は減りますが(少なくとも金銭面では)、今度は高額な保険料負担が家計にのしかかってきます。確実に経済的に苦しくなります。かと言って、クルマがないと不便極まりない地方社会、クルマに乗らないわけにはいきません。

 

結局、任意保険に加入せず、綱渡り状態で日々クルマに乗るということに。はっきり言って、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものですよ。

 

低所得者にとってマイカーを所有するということは、毎月(毎年)確実に一定の出費を強いられ経済的に苦しめられるか、事故を起こした時に多大な出費を強いられ経済的に苦しめられるか、という二択を強いられているわけですね。

 

どちらにしても厳しいですね。

 

すでに詰んでいますよ!地方の行き過ぎたクルマ社会は。

 

高知県はビリから3番目!!

 

高知県の対人賠償保険の加入率は、57.5%となっています。

 

沖縄県鳥取県に次いでビリから3番目(宮崎県も57.5%で同順位)という低さです。この数値は、トラックや営業車など法人の業務用車も含まれており、当然それらはほとんどが加入していると考えられるため、マイカーだけに絞った加入率はさらに低いのではないとと推測できます。

 

高知県が低くなっている要因として付け加えると、農山村部で自宅と農地と農協、まれに近所のスーパーの間でしか使っていないほぼ農業専用の軽トラなど、そういう車は任意保険にはあまり入っていないと考えられるので、それらがある程度加入率を下げていると推測できます。

 

しかし多くは、「任意保険に加入する経済的余裕が乏しいながらも、クルマに乗らざるを得ない」というのが実態でしょうね。

 

道路を走るクルマの4割は自賠責だけ。自賠責だけでクルマを走らせざるを得ない人が多数いる。それが地方のクルマ社会。考えれば恐ろしい現実です。

 

車両保険まで含めたフルコースでの加入ともなると、かなり厳しいようです。

 

高知県搭乗者保険加入率は34.2%車両保険加入率は28.6%となっています。車両保険については、対人対物の加入率が高知県と似たような割合の都道府県よりも低い加入率にとどまっています。

 

「対人対物と搭乗者はさすがに入ってないとマズいけど、車両まで入るとさすがに高くなるから・・・」

 

多くの家庭にとって、クルマの維持費が家計に重くのしかかっていることが推測できます。削るところはやむなく削らざるを得ない。経済的に余裕があれば、当然フルコースで入りたいでしょうからね。

 

対人対物保険未加入よりは遥かにマシですが、車両保険未加入もやっぱり綱渡り状態ですよ。

 

もし事故を起こして自分のクルマを壊しても、修理代や代替車購入の費用は保険から出ないわけですからね。予期せぬ高額な修理費、予期せぬ代替車のローン、庶民にとってはとんでもなく痛い出費です。

 

ぼくが知っている範囲でも、車両保険未加入だったゆえに、二重にローンを抱えてしまったという人、複数人知っています。

 

マイカーを手放せる環境をつくっていくしか解決策はない!

 

ちなみに、最下位の沖縄県に至っては対人で52.6%という低さです。ほぼ半分の割合でまともな賠償能力がないクルマが走り回っているということになります。もはやウヨウヨというレベルを超えています。クルマにはねられて、死んだり後遺症が残ったりしても、半分の確率でまともに賠償されないことになります。冗談抜きでトンデモナイ現実です。

 

沖縄に自転車ツーリング行きたいと思っていますが、この事実を知ったらなんか怖いですよ。保険に入ってないような人は、安全意識も低いでしょうしね。

 

 

任意保険の加入率の低さ一つをとっても、日常の足をクルマばかりに依存している地方の交通社会は、問題だらけです。「すでに行き詰まっている」と言っても過言ではないです。

 

誰もが気軽に乗れる公共交通を整備して、自転車の利用環境を改善して、カーシェアリングを普及させて、マイカーを手放せる環境(マイカー以外の選択肢)をつくっていかないとマズいですよ、本当に。