とさでん交通・路面電車の平均車齢は50年超!置き換えは待ったなしですが、単純に新車に入れ替えるだけでは…
とさでん交通(旧土佐電鉄)の路面電車には、2016年5月現在で計63両の車両が在籍してます。そのうち、外国電車や事業用などをのぞいた通常の運行に使用されている車両は58両在籍しています。
その内訳です。
100形:1両(2002年製造)
200形:14両(1950〜1957年製造)
590形:2両(1957年製造)
600形:29両(1957〜1964年製造)
700形:3両(1958年製造)
800形:4両(1959年製造)
1000形:2両(1981年製造)
2000形:3両(2000〜2004年製造)
(200形207号、201号 2016年3月9日 はりまや橋)
(600形614号 2016年3月9日 はりまや橋)
(2000形2001号 2003年12月29日 知寄町一丁目)
約9割の車両が車齢50年超と老朽化はかなり深刻
比較的新しいのは、100形(ハートラム)、1000形、2000形の合計6両だけ。それ以外の52両はすべて、車齢50年を超えた老朽車両ばかりです。
割合にすると、なんと約89.7%が車齢50年超!!!!!!
約9割を占めるご老体電車が、依然主力として君臨しているのが、 とさでん交通路面電車の実態です。
1000形、2000形も車体こそは新製ですが、台車やモーターなど足回りは200形などの流用品でメカニズム面では旧式にあたるため、本当に新しいと言えるのは超低床電車の100形(ハートラム)ただ1両のみという有様です。
全国の路面電車事業者と比べてみても、平均車齢の高さは堂々(?)の1位です。
他の路面電車事業者でも、旧型電車は多数残存していますが、例外なく1980年代以降に新型電車(岡山電軌や長崎電軌のように機器流用車ばかりの場合もありますが)や超低床車を一定数導入しており、それなりに改善が進んでいます。
最も状況が厳しそうに思える、富山県高岡市の万葉線ですら半数が超低床車に置き換わっています。もともと車両数が11両と少なく置き換えやすい事情はあるにせよ…。
つまり「とさでん交通」の路面電車は、 戦後から高度成長期半ばにかけて集中して車両を新製した以降、本格的な置き換えの機会に恵まれず、冷房化などの改造を実施しただけで延々と使い続け、21世紀になって15年以上経過した今まで来てしまいました。
1000形は5両導入する予定だったようですが初回に導入した2両で中止になり、2000形も当初10両導入する予定でしたが、財政難などの理由により3両で中止になっています。超低床車のハートラムは1両きりで、ほんとに「試しに入れてみた」だけ。
その結果、この南国高知にありながら冷房を装備してない(!)200形が12両も未だに運用されているという始末。それが真夏の日中に本線で運用されていることもあったりするので驚きです。それに乗った人の多くが「えっ!?冷房ないのかよ…」って言ってますよ。
そんな問題ありまくりの車両ですら置き換えがままならないほど財政状況は厳しく、2005年当時で車齢50年近いながらも「冷房がある」という理由で名鉄のモ590形を購入したほどです。
路線バスの方も、30年選手が登場するなど老朽化はかなり深刻ですが、こちらは一定のペースで新車を入れているので、まだマシと言えます。
「大昔に導入した車両を騙し騙し使い続け、なんとか今まで生き長らえてきた」というのが、とさでん交通の路面電車が置かれている実態です。
これ以上の先送りはそろそろ限界では?
現在でも、それら老朽電車の置き換えの目処は全く立っていないようです。補助金を活用しても、会社負担分が捻出できないほど状況は厳しいという話を聞いています。とさでん交通になった後に「超低床車導入を検討中」だの話を耳にしますが、特に具体化しているわけではありません。
正直なところ、「ボロ電車だらけで今後どうする気だよ…」って思います。鉄道趣味者としての観点からも「古い電車が多数残っていて、風情があっていい」なんて、もはや思わないレベルです。ぼくも200形も600形も好きですし、すっかり「高知の顔」になっていることは認めますが、それらばかりではいい加減ボロ過ぎます。
省エネ、省メンテナンスともに無縁な旧型電車、もうさすがにいつまでも使い続けるのは無理があるでしょう。本格的な置き換えは急務かと思います。それも、10両とかいうレベルではなく、7割以上を更新するくらいの規模でないと。
新車導入は設備の近代化とセットでの検討を
しかし残念ながら、単純に老朽車両を新車に置き換えただけでは、「都市交通機関としての未来はない!」と考えています。
何しろ設備が貧弱過ぎます。
市街地はともかくとして、郊外区間は「時代に取り残された感」がハンパありません。「その点を改良しないことには」と思うのです。
とさでん交通の本線(後免線・伊野線)は、市街地だけでなく、はりまや橋から約11km離れた後免町や伊野まで路線を伸ばしており、郊外電車としての性質を持っているのが特徴です。
だが郊外部になっても、一見すると砂利と枕木が見えており専用軌道に見えますが、ほとんどの部分は軌道法上は併用軌道のままです。
最高速度は40km/h止まりで、交通信号にも従う必要があります。如何せんカーブだらけで線形も悪く、見通しの悪い路地や民家の玄関が軌道脇にあったり、対向する自動車とほとんど間隔が取れなかったりするので、まともに速度は出せません。むしろ市街地の方が、線形がよく見通しがいいので速いくらいです。電停の間隔も、市街地と変わらず短いままです。
後免線郊外部の前面展望を撮影した動画がYouTuteにありましたので貼っておきます。
要するに、「郊外区間になっても路面電車の駅間や速度のまま」で、終点までかなり時間がかかります。はりまや橋から後免までは約35〜40分、同じく伊野までは45分もかかってしまいます。空いてればクルマで20分もかからない距離を倍もかかっているようでは、現代に通用する都市交通機関とは言い難いです。
現在はそんなことないですが、たまに中学高校時代は市内区間から後免町まで乗ると、いつも遅すぎてイライラしてました。「快速を設定しろー」ってね。
そういうこともあって後免線の場合、市街地から後免(南国市)まで乗り通す人は少なく、市街地内や市街地から高須や大津あたりまでの利用がメインになっています。
「市街地外れの住宅街に住む通勤通学客や高齢者相手に細々と生き長らえている」という状況です。かつては、高知市中心街〜後免町どころか鉄道線の安芸線にも乗り入れて、高知市中心街〜野市、手結(夜須)、安芸までの交通需要を担っていたのが今となっては信じがたいくらいです。
ノーガード電停も依然多く残るなど、安全面でも問題ありまくりです。
小篭通電停のごめん行きホームは土佐中街道の上。土佐電には結構な数のノーガード電停があります。危険ですが、安全地帯を作るスペースもないですしこれは当分どうしようもないでしょう。 pic.twitter.com/rrtduUXDvq
— photoてつおとこ (@sotetsu8705F) 2016年4月3日
@susaki_city_PR @aki_nabeya
— championsjp (@championsjp) 2015年4月21日
お店のすぐ前がとさでん交通の朝倉駅前電停です(ノーガード電停、乗降の際は周りの交通に注意してください) pic.twitter.com/ePvIu6lRwG
これでも以前からすればかなり減りました。1990年代中頃まで、後免線の郊外部は篠原〜後免西町間の専用軌道部分を除いて、後免方面行きはすべてノーガード電停と言う惨状でしたから。死亡事故もたびたび起きていました。しかし、現在に至るまで撲滅には至っていません。
そういうこともあって、単に低床の新車を入れただけでは、都市交通手段として機能面の向上はほとんど期待できません。ただ老朽車両が置き換わっただけ。乗り降りがしやすくなって、乗り心地は良くなるでしょうけど、それ以上でもそれ以下でもありません。
もっとも、郊外部に路線を展開してるのに全区間最高時速40キロ(線形の悪さで実際には30キロ)、ノーガード電停ばかりのこの惨状で新車導入しても利用増につながるとは思えんが…
— ばか者 (@makuhari_koutsu) 2016年5月20日
根本が開業時の明治時代の設備のままで、今の今までほとんど何も改良して来なかったのですから当然です。
とにかく、郊外部の近代化・高速化(市街地区間も幾分はスピードアップが必要)を考えないことには、新車を導入したところで先細っていくばかりでしょう。
個人的には、高知の路面電車が今後も通用する都市交通手段へと大躍進するには、本線(後免線・伊野線)に関しては、郊外区間の改良に加え、東側はかつて後免町から鉄道線の安芸線に直通していたように、その生まれ変わりと言える「ごめん・なはり線」へ直通して安芸や奈半利まで走り、さらにはJR土讃線土佐山田方面や空港線を新設し高知龍馬空港まで乗り入れ、西側も旭町〜朝倉間を新線への改良の上、朝倉からJR土讃線の伊野・佐川方面や高岡新線(高岡を経由する土讃線の新線案)に直通して、一体化したネットワークを構築し、郊外電車的な性質をさらに発展させていくのが望ましいと考えています。
桟橋線も短すぎて都市交通としてあまり機能していません。北はイオン・一宮方面、南は桂浜まで延伸したいところです。
そうなると、当然いろいろと課題は出てきます。車両限界の問題(最大幅2300mmでは狭すぎる!路線バスよりも狭い!)、路面電車と鉄道線のホームの高さの問題、土讃線やごめん・なはり線の電化の問題、電化した場合の架線電圧の問題、編成長の問題、そもそも財源の問題など。財源に関しては簡単に述べますが、整備に於いては公共交通整備の社会的便益をきちんと評価して、道路建設予算(特に高速道路の4車線化する予算)を転用するなどして公共のインフラとして投資していく必要があると考えています。
ごめん・なはり線や土讃線へ直通運転を考慮した場合、本線で運用する車両は、性能、サイズ、車内設備、最大編成長ともに「チンチン電車(ストリートカー)的なもの」から一線を画す内容が求められます。
情報量が多すぎて一遍には書けないので、それらについて順次書いていきます。
そろそろまとめますが、そのあたりをきちんと煮詰めていかない以上、闇雲な置き換えは避けた方がいいかと思います。特に、ホーム高さの問題以前に、車両限界の狭さをなんとかしないことには…。
現時点で車両の更新が止まっていることは、「不幸中の幸い」という見方もできます。車両を一新する機会に、既存の車両規格や性能にとらわれることなく、設備改良を含めたトータルでの近代化がやりやすいわけですから。(財源の問題は、また別ですよ)
車両更新を行ってないってことは設備ごと一新できるチャンスではあるんだけど…
— ばか者 (@makuhari_koutsu) 2016年5月20日
@soundsearth 既存のインフラを利用する場合は、従来規格をそのまま流用して新車両や新システムを設計するか、新車両や新システムを導入するのに合わせて全面リニューアルするか、どちらかになりますね。福井鉄道では、名鉄からの低床車導入に合わせて、ホームの嵩下げを行いました。
— NAL(おでライ宇都宮181・D-13) (@NAL_MUTHU) 2014年1月20日
とは言っても、やはり老朽化は深刻で待ったなしの状況ですので、まずは今後も使用を見込まれる1000形、2000形、600形後期型(622〜631のナニワ工機製。廃車済の629は除く。自社製の前期型と違って車体の歪みなどが見られず状態が良い)あたりに関しては、都電7000形(改良後7700形に形式変更)やJR四国121系(改良後7200系に形式変更)のように足回りの近代化(VVVF化&台車新製)を実施していってはどうかと。